ホーム小宮山建の主張手のひらを返したようなNTTのADSL

 

手のひらを返したようなNTTのADSL


  8月4日に、ソフトバンクの孫正義社長が来島して、来年4月までに八丈島にADSLを提供すると宣言し、島のユーザーたちを感激させた。すると、こんどはNTT東日本が、来年早期に、八丈だけでなく伊豆七島全体にADSLを提供すると、 この9月16日に、八丈町に伝えてきた。
 大島や新島などでもブロードバンドを望む声は高かったので、そのこと自体は大変喜ばしいことである。しかし、このニュースに釈然としないのは私だけだろうか。

 都会と離島との情報格差の拡大に危機感を抱いて、八丈島では昨年春頃からブロードバンドの早期導入を望む住民の声が高まり、それに応えて八丈町も何度となくNTTや、総務省と交渉を重ねてきた。そして、その過程で最大の難問は、NTTの非協力的な姿勢にあった。やれ回線がない、金がかかる、需要が見込めない……。特に問題だったのは、現在インフラがどうなっていて、どこにどれだけの投資をすれば実現できるのという肝心の情報を開示しようとしないことだった。これでは町としても手も足も出ない。国や都に援助をお願いしたくても、やりようがなかった。

 そうこうしているうちに、止むに止まれずソフトバンクの孫社長に直訴する人物が現れた。そして、その直訴に心動かされた孫社長が、この8月4日に来島し、集まった島の多くのユーザーを前に、来年4月に実現する、と約束してくれたのだった。私もその場に居合わせたが、その時の「出来ない理由などいくらでも言える。でも、実現を望むユーザーがいるのなら、どうやったら実現できるかを考えるのが私たちの務めだ」と熱く語った孫社長の言葉を忘れることは出来ない。

 ところがである。それからたった一月経つか経たないうちに、今回のNTTの手のひらを返したような豹変ぶりである。NTTは、当然のことながら、ソフトバンクがやると言ったから態度を変えたのではないと強調した。そして総務省との交渉がようやくうまくいったから、などと尤もらしい理屈を並べている。しかし、とてもそんな理屈を額面通り受け取れはしない。

 そもそも、今でこそADSLが日本に普及し、ようやくこの領域で日本が世界の先進国に肩を並べられるようになったが、一時は韓国やシンガポールに大きく水をあけられIT後進国に甘んじていたのは誰のせいだったのか。時代遅れのISDNの普及にこだわり、ADSLを広めようとする他社の動きを妨害したNTTの責任が重大であることはけっして覆い隠せはしない。

 確かに、これまでの親方日の丸から自由競争の世界に放り出され、しかも一方ではユニバーサルサービスを義務づけられて苦闘しているNTTにとって、会社の採算性を重視する姿勢が強いことも理解できないことではない。民間会社である以上、株主への配当をできるだけ多くすることも重要な義務ではあるだろう。だが、NTTの存在理由はけっして会社の儲けだけではないはずだ。ソフトバンクの孫社長のように、ユーザーの需要にできるかぎり応えようとする姿勢がなければ、国のユニバーサルサービスを任せることなど出来るわけがない。

 NTTの営業所が昨年八丈島から撤退した。しかし、未だに関連企業ではたらく従業員も島には少なくないし、中には個人的につながりの深い人もいる。だからNTTにはシンパシーも感じて、これまで出来るだけ応援してきたつもりである。でも、島で働く多くのまじめな職員たちを守ることにも、今のNTTの姿勢には熱意が感じられない。

 今後、ブロードバンド環境がととのえば、町としてもそれを前提としていろんなサービスを作って行くことになるだろう。すでにNTT東日本からも ブロードバンドを利用した公的サービスの提案が行われてきている。NTTには 様々の局面で協力していただかなければならないが、この会社が本当に利用者本位でのサービスを提供しようとしているかどうかについて、十分検証を重ねて対応することが必要だと感じている。

 

2003年9月20日 (小宮山たけし記)

 

 

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